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東京地方裁判所 平成7年(レ)128号 判決 1996年2月02日

控訴人

細野純一

被控訴人

日本電信電話株式会社

右代表者代表取締役

児島仁

右訴訟代理人支配人

朝原雅邦

右訴訟代理人弁護士

佐藤安男

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一審、第二審を通じて、被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  控訴人と被控訴人とは、平成三年一〇月七日、電気通信事業法に基づき定められた電話サービス契約約款により、被控訴人が控訴人に対し、設置場所を東京都府中市寿町一丁目四番一八号沢井ビル二〇二号とする、左の各電話番号の各加入電話につき電話サービスを提供し、控訴人が被控訴人に対して右各加入電話の利用にかかる料金を毎当月五日締切、翌月五日支払、遅延損害金年14.5パーセントの約定の下に支払うとの電話利用契約(以下「本件電話利用契約」という。)を締結した。

(一) 武蔵府中 六五局〇八二〇番(以下「電話①」という。)

(二) 武蔵府中 六五局〇八二五番(以下「電話②」という。)

(三) 武蔵府中 六五局〇八二九番(以下「電話③」という。)

(四) 武蔵府中 六五局〇八三〇番(以下「電話④」という。)

(右の電話を以下一括して「本件各電話」という。)

2  控訴人が電話②及び電話④については、平成三年一二月分から、電話①及び電話③については、平成四年一月分から電話利用料金の支払を遅滞したので、被控訴人が控訴人に対して、右各未納電話利用料金について、支払を催告したところ、その後も控訴人が支払に応じないので、被控訴人は、支払がない場合、支払があるまでの間、本件各電話の利用を停止する(以下「利用停止」という。)旨を通知したものの、控訴人が支払を怠ったので、電話②及び電話④については、平成四年二月六日から、電話①及び電話③については、同年三月三日から、本件各電話の利用サービスの提供を停止した。

3  控訴人がその後も本件各電話の利用料金を支払わないため、被控訴人は控訴人に対して、平成四年一一月四日、本件電話利用契約を解除する旨の意思表示をした。

4  控訴人は被控訴人に対して、右契約解除後、一部の未納電話利用料金を支払ったが、なお、本件各電話に関する左の各電話利用料金の支払を左の各支払期日経過後も、遅滞している。

(一) 電話①

(1) 平成四年四月分 金五二六三円

支払期日 同年五月六日

(2) 同年五月分 金一四五二円

支払期日 同年六月五日

(3) 同年六月分 金二四八二円

支払期日 同年七月六日

(4) 同年七月分 金二四八二円

支払期日 同年八月五日

(5) 同年八月分 金二四八二円

支払期日 同年九月七日

(6) 同年九月分 金二四八二円

支払期日 同年一〇月五日

(7) 同年一〇月分 金二四八二円

支払期日 同年一一月五日

(8) 同年一一月分 金二四八円

支払期日 同年一二月七日

合計金一万九三七三円

(二) 電話②

(1) 平成四年三月分 金五二六三円

支払期日 同年四月六日

(2) 同年四月分 金五二六三円

支払期日 同年五月六日

(3) 同年五月分 金一四五二円

支払期日 同年六月五日

(4) 同年六月分 金二四八二円

支払期日 同年七月六日

(5) 同年七月分 金二四八二円

支払期日 同年八月五日

(6) 同年八月分 金二四八二円

支払期日 同年九月七日

(7) 同年九月分 金二四八二円

支払期日 同年一〇月五日

(8) 同年一〇月分 金二四八二円

支払期日 同年一一月五日

(9) 同年一一月分 金二四八円

支払期日 同年一二月七日

合計金二万四六三六円

(三) 電話③

(1) 平成四年四月分 金五四六九円

支払期日 同年五月六日

(2) 同年五月分 金一四七二円

支払期日 同年六月五日

(3) 同年六月分 金二四八二円

支払期日 同年七月六日

(4) 同年七月分 金二四八二円

支払期日 同年八月五日

(5) 同年八月分 金二四八二円

支払期日 同年九月七日

(6) 同年九月分 金二四八二円

支払期日 同年一〇月五日

(7) 同年一〇月分 金二四八二円

支払期日 同年一一月五日

(8) 同年一一月分 金二四八円

支払期日 同年一二月七日

合計金一万九五九九円

(四) 電話④

(1) 平成四年三月分 金五二六三円

支払期日 同年四月六日

(2) 同年四月分 金五二六三円

支払期日 同年五月六日

(3) 同年五月分 金一四五二円

支払期日 同年六月五日

(4) 同年六月分 金二四八二円

支払期日 同年七月六日

(5) 同年七月分 金二四八二円

支払期日 同年八月五日

(6) 同年八月分 金二四八二円

支払期日 同年九月七日

(7) 同年九月分 金二四八二円

支払期日 同年一〇月五日

(8) 同年一〇月分 金二四八二円

支払期日 同年一一月五日

(9) 同年一一月分 金二四八円

支払期日 同年一二月七日

合計金二万四六三六円

よって、被控訴人は控訴人に対し、本件電話利用契約に基づき、未払電話利用料金として合計金八万八二四四円及び本件各電話の各月の電話利用料金に対する各月の支払期日から各支払日の前日まで年14.5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2ないし4の事実は否認する。

三  控訴人の主張及び抗弁

1  控訴人の主張

(一) 控訴人は本件各電話についての利用停止期間中、被控訴人から電話利用サービスの提供を受けることができなかったのであるから、控訴人が被控訴人に対して、本件各電話の利用停止期間における電話利用料金を支払うべき義務はない。

(二) 加えて、控訴人が被控訴人に対して、本件各電話について控訴人に対して「利用休止」とする措置を取るよう要請したにもかかわらず、被控訴人は、控訴人に対して利用停止の措置を取ったものであって、かかる場合に、被控訴人が控訴人に対して利用料金の支払を請求できるとするのは不当である。

(三) したがって、控訴人は本件請求にかかる未納電話利用料金の支払義務を負担しない。

2  抗弁

(一) 被控訴人多摩東支店お客様センター担当の吉野は、平成六年六月一日、控訴人が未納電話利用料金の支払のために同支店を訪問したところ、控訴人を倉庫に閉じ込めた上、長時間放置して応対しない等、控訴人に対する差別的取扱を行った。

(二) 控訴人が右の差別的取扱によって受けた精神的苦痛を慰謝するには、金二〇万円の慰謝料をもって相当とする。

(三) 控訴人は平成六年一一月三〇日、本件原審口頭弁論期日において、控訴人の被控訴人に対する不法行為に基づく損害賠償請求権によって、被控訴人の控訴人に対する本件請求権を、対等額で相殺する旨の意思表示をした。

四  控訴人の主張及び抗弁に対する認否

1  控訴人の主張は争う。

2(一)  抗弁(一)の事実は否認する。

(二)  抗弁(一)、(二)の各主張は争う。

第三  証拠

本件訴訟記録中書証等目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一1  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

2  成立に争いのない甲第一号証、第七号証、第八号証の一ないし三四、第九ないし第一一号証及び弁論の全趣旨により成立の認められる甲第三、第四号証の各一ないし四、第五、第六号証並びに弁論の全趣旨によれば、請求原因2ないし4の各事実を認めることができる。

二  被告の主張について判断する。

1  まず、電気通信事業法三一条一項により、第一種電気通信事業者が電気通信役務に関する料金その他の提供条件について契約約款を定め、郵政大臣の認可を受けなければならないと規定され、同条二項により、郵政大臣が前項の認可の申請が一定の要件を満たしているときは認可しなければならないと規定されているところ、その要件とは、料金が能率的な経営の下における適正な経営の下における適正な原価に照らし公正妥当なものであること、電気通信回線設備の使用の態様を不当に制限するものでないこと等であること、そして、同条三項により、第一種電気通信事業者が、第一項の規定により契約約款で定めるべき提供条件については、同項の認可を受けた契約約款によらなければ電気通信役務を提供してはならないと定められている。また、同法三二条一項により、第一種電気通信事業者が前条一項の認可を受けた契約約款を営業所等に公衆の見えやすいように掲示しておくべきことが定められているから、電話サービス契約約款が電気通信事業法三一条一項に基づき定められたことは明らかである。

2  次に、前掲甲第一号証、第五、第六号証並びに弁論の全趣旨によれば、電話サービス契約約款によれば、電話料金は、基本料金、通話料金、従量付加料金及び手続きに関する料金とされ、内基本料金は、回線使用料、配線設備使用料、機器使用料及び付加機能使用料等の合算したものとされていること(同約款九九条)、契約者は、その契約に基づいて被控訴人が契約者回線、端末設備又は付加機能等の提供を開始した日から契約の解除等があった日の前日までの期間の基本料金を支払うべきものとされ(同約款一〇〇条一項)、その上で、利用停止により電話サービスを利用することができない状態が生じた場合も、契約者が料金の支払いをなすべきとされていること(同条二項二号)、これに対し、契約者回線の利用休止をしたときは、契約者回線を利用休止とした日から再び利用できる状態とした前日までの料金については契約者において支払を要しないものとされていること(同項三号表の2)、なお、利用休止とは、契約者から請求があったとき、契約者回線及び電話番号を他に転用することを条件として、その契約者回線を一時的に利用出来ないようにすることをいい(同約款二〇条一項)、その際には工事が必要であること、これに対して、利用停止とは、被控訴人が契約者に電話料金その他の債務について債務不履行がある場合にその契約者が右債務を履行するまで、その契約者回線を一時的に利用できないようにすること、その際、契約者回線及び電話番号の他への転用を行わず、それゆえ工事を伴わないものであることを認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

3  ところで、電話サービス契約約款がこれにより契約内容が構成されている電話利用契約の当事者に対する拘束力を有するのは、右約款の内容の如何にかかわらず、適当な内容であると契約者が契約内容を信頼して、右約款によって右契約を締結したものと推定されるからである。

そして、契約者が当該回線及び電話番号の他への転用を行わない利用停止期間中も電話利用料金の支払義務を免れないとする右約款の規定も、右2に認定の、基本料金が回線使用料等により構成されていること、利用停止が契約者に電話利用料金の支払遅滞がある場合の措置であって、回線及び電話番号の他への転用を伴わないという各事情に照らせば、公序良俗に反するとか、契約者の信用を害する不合理なものということはできず、また、利用停止が利用者の電話利用料金の支払遅滞の措置として取られるものとして規定されている点も、契約者の信頼を害する不合理なものであるということはできない。加えて、控訴人は電話サービス契約約款が被控訴人の営業所等に掲示されておらず、電気通信事業法三二条に反するので、約款としての拘束力がない旨主張するが、右掲示の有無にかかわらず、電話サービス契約約款が拘束力を有することは、右に述べた電話サービス契約約款が拘束力を有する根拠に照らして明らかである。

4  そして、控訴人が被控訴人に対して利用休止の請求をしたと主張するものの、本件全証拠によっても、右主張の事実を認めるに足りる証拠は存在しない。仮に、控訴人が被控訴人に対して利用休止の申出をしたことがあったとしても、控訴人に電話利用料金の支払遅滞が存在したこと及び利用停止の措置が、利用者に電話利用料金の未納がある場合の措置であることは前記認定のとおりであるから、被控訴人が利用休止の措置を取らなかった点をもって違法であるということはできない。したがって、控訴人は被控訴人に対して、本件電話利用契約及び電話サービス契約約款に基づき、本件各電話の利用停止期間中の料金についても、なお、支払義務を免れないと解するのが相当である。

三  抗弁について判断する。

当審における控訴人本人尋問の結果によれば、控訴人の主張する、平成六年六月一日の被控訴人多摩東支店に勤務する従業員である吉野が控訴人を倉庫に押し込んで閉じ込めたというのは、控訴人が吉野に控訴人が倉庫と主張する一室に案内され、そこに待たされたというにすぎない。したがって、仮に控訴人が主張するように、吉野が控訴人を一般の顧客と異なる部屋において応対し、その部屋が一般の顧客が対応される部屋とその設備等において相違する点があったとしても、控訴人も自認する電話利用料金の支払遅滞の事実をも併せて考慮すれば、吉野の被控訴人に対する応対をもって、被控訴人による控訴人に対する社会通念上不合理な差別的処遇であり控訴人に対する不法行為であるということはできない。したがって、控訴人の抗弁は理由がない。

四  結論

以上の次第で、被控訴人の本件請求は理由があるから、これと判断を同じくする原審の判断はこれを是認することができ、したがって、本件控訴は理由がないから、これを棄却し、控訴費用の負担につき、民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官星野雅紀 裁判官金子順一 裁判官吉井隆平)

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